アイルランド音楽のワークショップについて

ワークショップ開催が決まったとき、参加してもいいだろうか?と質問をいただいたり、迷いや躊躇いの気持ちが伝わることがあります。これはアイルランド音楽の経験の有無よりも、楽器を弾くということの経験年数が影響しているような印象を受けます。楽器を扱うことに慣れている方よりも、どちらかというとリスナー寄りの関わり方をしている方、自分自身に対してまだちゃんと弾くことができないと思っている方や、みんなの速さ(理解/弾くテンポ/覚えるスピードなど)についていくことができないと思っている方に多いように思います。全く楽器をさわったことのないリスナーも含め、こういった”自分にとって楽器を弾くことはまだ/これからも難しい”と思っている人にとって参加のネックとなる経験年数や演奏レベル。ワークショップの参加に際し、これらを気にする必要はあるのでしょうか。

参加したい気持ちがありながら自分の中に迷いがあるとき、まずは募集要項で参加できるかどうかを見てみるといいでしょう。参加可能楽器に制限があるか?経験年数や受講可能レベルを満たしているか?こういった参加の前提となるものに引っ掛かっている場合は、残念ながら難しいかもしれません(もちろんどうしてもこの人のワークショップに参加したいという強い気持ちがある場合、自分の状況を明確にして交渉してみるのもひとつの方法かと思います)。でもおそらく多くの人が躊躇い、参加に足踏みするのは、この参加可能条件を満たした中での「気持ちの壁」から来る「ワークショップに参加してもいいのか?」という疑問。しかしもし参加条件を満たしているのであれば、この気持ちの壁はとりあえず脇に置いておいて、アイルランド音楽に対する興味があるそのタイミングで、積極的に足を運ぶことは、とても大切なことではないかと思います。

アイルランド音楽のワークショップのほとんどは※、楽器の扱いを学ぶことよりも、アイルランド音楽そのものに重点が置かれます。特に音楽を聴き始めた頃や、楽器を演奏し始めた頃は、それから先の自分自身の音楽を作っていく土台になる時期ではないかと思います。この時期にアイルランド音楽そのものについて考え、講師の考えを聞くことは、今後の自分の音楽やこの音楽との関わり方に影響するでしょう。リスナーとしても演奏者としても、見方や考え方を広げるいい機会です。

※ もちろん楽器を分けてのワークショップもあり、その場合は募集要項に明記があります。こういった場合は楽器の操作も含めて、より特定の楽器に特化した内容になるものと思われます。逆に受講資格が特定の楽器に限られておらず、例えば”アイルランド音楽で使われる楽器全般”などとなっていれば、例えば講師がコンサーティーナのワークショップにフィドルで参加しても、問題はありません

おそらく気持ちの壁となるのは、参加したときに自分はそこでの話題や演奏についていけるのだろうか?という不安かと思います。実際にワークショップに足を運んでみると、特に指定されていない限りは、参加者の演奏レベルは様々です。講師は全体の様子を見ながらワークショップを進めていきます。当然ですが、全体の演奏レベルには届かない受講者もいます。技術的に難しい、速さについていけない、言っていることの意味が分からない。でもそれは大した問題ではありません。弾けないところは、楽器を下ろして聴いていれば大丈夫です。今の自分にできなくても、三年後の自分にはできるかもしれません。弾くことに必死になって、講師が言ったこと・伝えようとしたことを忘れるよりも、聴いて自分の中に残しておくことが大切ではないかと思います。講師がなにを伝えたいと思い、それをどう表現するのかに、じっと耳を傾ける。弾くことは、帰ってからできるはず。でも、そこで起こっていることを見聞きできるのは、その一度、その一瞬だけではないでしょうか。

楽器を全く弾かないリスナーにとってはどうなのか。参加できるかどうかはワークショップによりますが、もしこの音楽に興味があるのであれば、聴講することが可能か問い合わせてみるといいかもしれません。アイルランド音楽のワークショップは、その殆どの場合、ただチューン(曲)を覚えることだけに留まりません。そのチューンの背景などのお話を聞いたり、演奏者がどこに重点を置いて演奏しているのか見ることができ、アイルランド音楽の聴き方に影響することと思います。これはアイルランド音楽を楽しむ上で、とてもいい経験になると思います。

初めてのことは、思い切りが要るかもしれません。でも、自分には難しいかもしれないことに思い切りたいと思う時期は、より多くの事柄を吸収できる時期かもしれません。経験年数や演奏レベルではなく、音楽に対する興味と気持ちが強い時期を逃さずに、自分の持つその気持ちに応えてより多くの事柄を吸収する。その時々にできる経験をひとつひとつ重ねることで、リスナーとしてもプレイヤーとしても、見えること聞こえることが、だんだんと広がってくるのではないかと思います。


Written by Haruko Iwata